心臓は私たちの大切な臓器です。もし異常があったら、きちんと診断して治療してほしい。もちろん、安全な方法がいいですよね。
スワミィ マハデバ マカナハリ マデゴウダ 助教(先端生命科学研究院)は、生体内を安全にイメージング(画像化)する方法を研究しています。2022年10月21日にプレスリリース「心臓の異常を光で診断―近赤外蛍光を利用した脂肪酸代謝の生体蛍光イメージング―」を出したスワミィ助教にインタビューしました。
―心臓を診断する方法には、どのようなものがありますか?
現在行われているのは、「長鎖脂肪酸」に似た物質を体内に入れて、心臓をイメージングする方法です。
―長鎖脂肪酸とは?
脂肪酸は、肉、魚、植物油などにも含まれる油の成分です。脂肪酸のうち、長い分子のものを長鎖脂肪酸といいます。
―なぜ、長鎖脂肪酸に似た物質を使うのですか?
心筋(心臓の筋肉)で使われるエネルギーのうち、約70%が長鎖脂肪酸から作られます。そのため、長鎖脂肪酸と似た構造のヨードフェニル-ペンタデカン酸BMIPP(β-methyl-P-iodophenyl-pentadecanoic acid)を体内に入れると、心臓が間違えて取り込むのです。BMIPPには放射性のヨウ素が結合しています。BMIPPから出た放射線を捉えることで、心臓のイメージングができるしくみです。
―体の中で放射線が出る方法には、不安がありますね。
放射線によって、DNAがダメージを受ける危険があります。また、放射線の検出には大掛かりな装置が必要になるため、限られた施設でしか診断ができません。
―放射線を使わずに、心臓を診断できるといいのですが。
私たちは放射線の代わりに、近赤外線を出す物質を使ってイメージングを試みました。近赤外線は、体の組織を通り抜けますが、危険はありません。
―どのようにイメージングしたのですか?
BMIPPの放射性ヨウ素の部分を、蛍光色素Alexa680に入れ替えました。蛍光色素とは、光を吸収して、それより弱いエネルギーの光を出す色素です。
新たに合成した物質Alexa680-BMPPを生きたマウスに注入すると、心筋に取り込まれました。さらに、色素から出る近赤外線の蛍光を顕微鏡で捉え、心臓イメージングにも成功しました。
この方法を使えば、生きたまま、安全に、大掛かりな装置なしに、心臓イメージングが可能になります。
―理化学研究所や大阪大学との共同研究でしたが、どの部分を担当したのですか?
北大が担当したのは、Alexa680-BMPPの合成です。生きたマウスのイメージングは、理化学研究所で行いました。もともとBMIPPを使って心臓病の研究をしていたのが、大阪大学です。
―この方法は、人間にも応用できますか?
マウスでは、体の表面から1センチメートルほど内側をイメージングしました。人間の臓器を調べる場合は、もっと内側のイメージングが必要ですよね。深い部分を見るためには、さらに長い波長の光を出す物質が必要になります。現在は、乳がん診断のための物質を作る研究を進めています。
―なぜ、研究者を目指したのですか?
修士課程修了後、インドの研究所でインターンをしました。そこで研究活動や装置に魅了されたことがきっかけです。その後、インドを訪れていた神 隆 教授(理化学研究所)や門出 健次 教授(先端生命科学研究院)に出会い、彼らの元で研究したいと考えるようになったのです。
―それで、日本に来られたのですね。
生命科学院のIGP(International Graduate Program)に応募して、博士号を取得しました。日本での働き方や、気楽な生活が気に入っています。
―何か困ることはありますか?
研究室の外では、コミュニケーションに困ることもあります。でも、今は技術が発達しているので大丈夫です!(と、スマホを見せる。)
―なるほど!翻訳アプリもありますものね。今後は、どのような研究をしていきたいですか?
分子イメージングの研究を続けて、体内の様子を画像化していきたいです。将来はインドに戻り、独立した研究室を持ちたいと思っています。
好きな日本食は、寿司、ラーメン、スープカレーとのこと。札幌名物スープカレーは、比較的インドのカレーに近いのだそうです。
スワミィ助教の、日本での、そして祖国インドでの、ご活躍を期待しています!
プレスリリース:
心臓の異常を光で診断 -近赤外蛍光を利用した脂肪酸代謝の生体蛍光イメージング-
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/221021_pr5.pdf