理学部生物科学科(高分子機能学)では、2年生を対象にキャリアパス教育イベント「先輩は語る」を2023年9月22日に開催しました。卒業生が、学生時代の経験や現在の仕事について語ることで、学生に進路を考えてもらうことが目的です。お話ししたのは、中外製薬株式会社の涌井 初(わくい はじめ)さんです。
涌井さんは、2016年に理学部生物科学科(高分子機能学)を卒業し、生命科学院 生命科学専攻 生命融合科学コースに進学しました。2021年に博士の学位を取得し、ポスドクを経て、2023年4月から中外製薬株式会社に勤務しています。
糖について研究した大学時代
大学では糖について研究していました。糖タンパク質(糖が結合したタンパク質)であるMUC1(マックワン)は、正常な細胞にも多く存在しています。一方で、がん化した細胞に存在するMUC1は糖鎖(いくつもの糖が鎖状につながったもの)の形が短く変化することが知られています。そこで、短い糖鎖を持つMUC1だけに結合する抗体を作製し、構造や機能を解析しました。抗体で糖鎖の違いを見分けることができれば、がんの治療薬の開発につながるかも知れません。分子を合成したり、大腸菌にタンパク質を作らせたり、マウスを用いて実験したり、大学時代は幅広い研究手法にチャレンジし、楽しかった思い出があります。
薬品を混ぜるだけで楽しい!
もともと図鑑や生き物が好きな子どもで、大学で研究をしてみたいと思っていました。最先端の研究をしたくて、先端生体制御科学研究室を選びました。いろいろな薬品を混ぜるだけでワクワクし、新たな発見があるとさらに面白さを感じました。そして研究成果を論文として発表したいと考え、博士課程に進学しました。
新しいことを進める力がついた
博士号を取得すると、研究の専門家として扱われるようになります。企業では、研究の仕事を任されたり、研究成果を期待されたりします。一方で博士課程進学に迷う方がいても当然だと思います。成果が出なければ修了が遅れますし、かかった費用や時間に見合うだけの待遇が得られるとは限りません。
私自身は、博士課程で得たものは大きいと感じています。博士課程では、未知の事柄を発見し、解釈し、論文として発信し、世の中に認めてもらう経験ができます。新しいことを進めるために必要な能力や、社会でも役立つ力が鍛えられました。
薬の可能性を現実に
大学での研究は、論文化が一つのゴールですが、そこから先、成果の社会還元に必要なことを学びたくなり、社会に出ることにしました。ポスドクを経て製薬会社に転職し、現在はバイオ医薬品の分析業務を行っています。開発段階のバイオ医薬品に対して多角的な分析を行い、「分子の特性」を深く理解することで、原薬の製造方法や、品質を管理する方針(出荷および安定性の規格)を決定していきます。ゆえに今の仕事は、薬になる可能性がある「分子」を、製品としての「薬」にしていく仕事とも言えます。
自分の力が発揮できる道へ
みなさんもそれぞれ好きな方向に進むのが一番ですが、自分の力が発揮できそうな道を選ぶと結果が出しやすくなるかなと思います。進路に迷ったら博士課程への進学も候補の一つとして考えてみてください。
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