化学結合の切断をした新しい⾃⼰強化材料の開発機械化学反応による急速強化が可能に

北海道大学総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)及び同大学大学院先端生命科学研究院の龔 剣萍(グン・チェンピン)教授、WPI-ICReDD及び米国デューク大学のマイケル・ルビンスタイン教授らの研究グループは、化学結合の切断を利用した迅速な自己強化材料を開発しました。従来、材料内の化学結合が切断されると強度が低下し破壊が進行することが一般的でした。自己強化材料は、この現象を逆手に取った新しいアプローチです。結合の切断で発生する「機械的ラジカル」を活用し、材料内で新しい高分子ネットワークをラジカル重合で形成させることで、使用中に自己強化を実現します。筋肉トレーニングのように、材料が使用されながら強化される仕組みです。

この自己強化は、硬く脆い第1ネットワークと柔軟な第2ネットワークからなる「ダブルネットワーク(DN)ゲル」により可能になります。従来のDNゲルでは、機械的ラジカルの生成量が少なく、ネットワーク形成速度が遅いため、迅速な強化を達成できませんでした。この課題を解決するため、今回は第1ネットワークに「弱い共有結合」を犠牲結合として導入しました。この結合は負荷時に容易に切断され、大量の機械的ラジカルを生成します。このラジカルが新しい高分子ネットワークの形成を促進し、ネットワーク形成速度が従来の100倍に向上しました。これにより、材料は短時間で強度を増し、亀裂進行を効果的に抑制できるようになりました。

このアプローチは他のポリマーマテリアルにも応用可能で、迅速かつ効率的な強化を通じて、耐久性や疲労耐性を備えた構造材料の開発が期待されています。

なお、本研究成果は、2025年2月26日(水)公開のNature Materialsに掲載されました。

【ポイント】
  • ゲル材料の新しい自己強化アプローチの提案。
  • 弱い犠牲結合による迅速な自己強化に成功。
  • 高耐久性・疲労耐性な材料開発に期待。
亀裂先端での応力集中と自己強化の概念図。化学結合の切断により新しい高分子ネットワークが形成され、強度向上を促進する。

プレスリリース:化学結合の切断を利用した新しい自己強化材料の開発~機械化学反応による急速強化が可能に~(総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点 教授 龔 剣萍)