先端生命科学研究院では所属の研究者(教員、博士研究員、博士後期課程学生)に対し、海外でセミナーを実施する等、国際的なネットワークを形成するための海外渡航費支援を行っています。
支援を受けた研究者のレポートを紹介します。
氷結晶結合タンパク質への情熱を世界へ:ミラノでの国際学会と研究交流
新井 達也(あらい たつや)
先端生命科学研究院 助教
イタリア・ミラノ大学
2025年8月30日~9月8日
イタリア・ミラノ大学で開催された 5th Ice-Binding Proteins Conference(IBP2025)に参加し、口頭発表を行いました。氷結晶結合タンパク質(IBP)は、低温環境に生息する様々な生物が生産する生体保護分子であり、その名前の通り氷に結合して、その成長を制御する機能を発揮します。IBPは、氷結晶という硬くて特殊なターゲットに結合するユニークな分子であり、世界中の研究者が様々な基礎・応用研究を行っています。

IBP国際学会の翌日には、学会会場をそのままお借りして、本学会 Lifetime award 受賞者である Ido Braslavsky 教授(エルサレム・ヘブライ大学)らとミニセミナーを行いました。学会では語りきれなかった『IBP愛』を語りあい、今後の共同研究に関する議論を深める事ができました。
IBPと氷結晶との分子相互作用には、まだ未解明な点が多く、その分子メカニズムを明らかにするために世界中の研究者が研究を行っています。Ido教授らは、氷結晶を0℃以下で精密に制御しながら蛍光観察できる特殊な顕微鏡装置や、マイクロ流路内で氷結晶を発生させてIBPとの相互作用を測定する独自の装置などを開発しています。私たちの研究室では、クワガタやカレイといった北海道の生物から、強力な活性をもつIBPを発見してきました。これら日本産IBPにIdo教授らの技術を適用することで、氷結晶とタンパク質の相互作用に関する分子メカニズムがさらに明らかになることが期待されます。

今後は、国際共同研究を本格的に開始し、IBPの分子機能メカニズムに関する国際共同論文の発表を目指したいと考えています。今回の海外渡航を通じて、IBPや氷結晶研究に関する最新の動向を把握することができ、非常に充実した日々を過ごすことができました。前回2022年のIBP国際学会は新型コロナウイルスの影響が残っていたためオンライン参加となりましたが、やはり現地で直接参加することで、新たな研究コミュニティの開拓や活発な議論を行えることの重要性を強く実感しました。