マックスプランク分子生理学研究所短期留学レポート

陳明皓(Minghao Chen)
生命科学専攻・博士後期課程・2年生(当時)
2017年2月12日~2017年4月30日
ドイツ(ドルトムント)

このたび北海道大学先端生命科学研究院・海外渡航プロジェクトに支援をいただき、ドイツのドルトムントに位置するマックス・プランク分子生理学研究のクリストス・ガツォギニアス博士の研究グループに、3ヶ月の短期訪問研究をして参りました。

マックス・プランク物理生理学研究所

昨年、北海道大学でガツォギニアス博士が電子顕微鏡に関する、非常に興味深い研究内容を講義して下さったことがきっかけとなり、構造生物学の一手法として、自分も電子顕微鏡の技術を学んでみたいと思うようになりました。また、現在私が所属している研究室では、数百キロダルトンの大きい分子複合体を、低分解能で観測するのに適しているネガティブステイン電子顕微鏡技術を新たに取り入れようとしているため、このことをガツォギニアス博士に相談したところ、3ヶ月間の短期留学の受け入れを快諾して下さいました。

ガツォギニアス博士(右)とともに

今回の短期留学の目標として、私はネガティブステイン電子顕微鏡技術の初歩を身につけることを設定しました。特に本学科でも、訪問先の研究室と同じスペックの電子顕微鏡設備を所有しており、本学でネガティブステイン電子顕微鏡の測定系を立ち上げ、所属研究室のみならず、学科全体が巨大分子複合体の単粒子解析をできる環境作りに貢献したいと考えたからです。

マックス・プランク・ソサイエティは、ヨーロッパを代表する研究機構として83の研究所から構成され、自然科学、社会科学及び人文科学の様々な分野の基礎研究に展開しています。今回訪問したマックス・プランク分子生理学研究所はその名の通り、分子生物学に特化しており、特にガツォギニアス博士が所属しているデパートメントは、クライオ電子顕微鏡によるタンパク質の高分解能構造解析に長けています。最先端のTitan Kriosを含む計4台の電子顕微鏡を駆使し、得られた研究成果は毎年Natureを始めとする著名な国際誌に紹介するなど、設備・実績ともに世界一流の研究グループです。

滞在中に肌で感じたのは、マックス・プランク研究所のレベルの高さと、研究の自由度の高さです。研究所では実験器具の洗浄を始め、培地作りやプラスミド作りは全て専任のスタッフがついており、私のような博士学生でも雑務ではなく、実験計画の設定、実行、及びデータの解釈、さらに論文執筆といった研究業務に専念できるようになっています。また、博士学生とほぼ同じ人数の世界各地から集まった優秀な博士研究員も同じデパートメントに所属しており、研究情報や技術の交換が日常的に行われています。常に刺激的な環境の中で研究を行っている一方、研究所の人々は非常にリラックスしており、夜遅くまで残ることがほとんどありません。しかしながら、コアタイムに集中して研究を行い、議論の時間も惜しまず、“実験する”と言う呪縛に縛られないで、サイエンスを楽しんでいるように見えました。

3ヶ月の滞在期間中、試料調製、グリッド作り、ネガティブステイン電子顕微鏡でのサンプル確認、及びデータセットの測定を体験することができました。ネガティブステイン電子顕微鏡法は、およそ30分だけで自分の試料の状態を確認することができる非常に優れた手法であり、試料の大きさにも依存しますが、ドメイン構成や多量体化状態を直感的に捉えることができます。またタンパク質の凝集状態も観測できるため、SDS-PAGEをきれいなまま結晶化したい、という問題に明確な解を示してくれます。しかしその一方、グリッド作りは職人技に依存する部分も今回身をもって経験しました。私が作ったグリッドではカーボン膜がすぐ破れるうえ、試料の分布が均一ではなく、染色の濃さもまちまちになっていました。北大に戻ってきて、機会を見つけて練習したいと思います。

最後に、現在海外へ留学を検討している後輩方に伝えたいことは、一歩踏み出す勇気です。言葉は問題ではありません。知らない土地で通用するのは流暢な英語ではなく、あなたの笑顔です。文化や習慣の違いに顰蹙(ひんしゅく)するのではなく、それを楽しむ気持ちで過ごしましょう。そうすると、世界を今までと全く違う新しい視点で捉えることができるでしょう。ぜひ、その一歩を踏み出して下さい。

この場を借りて、このような貴重な機会を下さった、先端生命科学研究院・海外渡航プロジェクトに感謝を申し上げます。

送別会の様子(中央手前が筆者)