遺伝情報クラスター
染色体は生命を形作るための設計図である遺伝情報の担い手であり、その機能発現の場であると同時に制御の要として働いている。われわれは、従来の蛋白質解析法に加えて、プロテオミクス、ゲノミクス、遺伝学、分子イメージングを組み合わせることにより、ヒトの染色体の維持・伝達のメカニズム、エピジェネティクスによる機能発現制御メカニズムに関わる蛋白質の反応スナップショットを、細胞内での時空間的なダイナミクスのなかで浮き彫りにしようとする様々な試みを行っている。これまでに、エピジェネティクスに関わる新規因子を20種類以上見いだし、機能解析を行っている。この過程で、抗がん剤のターゲットとして着目されているAurora Bキナーゼの活性化を引き起こすタンパク質を発見し、成果はNature Cell Biology誌に掲載された。また、その成果は世界的に注目されており、Nature Review Cancerなどに紹介された。これと並行して、ヒト染色体研究で培った、プロテオミクスを用いた機能遺伝子のスクリーニング法は、他の生物学研究、あるいは医学研究においても汎用性があり威力を発揮することを実証した。
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Analysis of genetic inheritance and functional expression by omics approach
総合グライコミクスで細胞を記述する
細胞表層は、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンといった種々の複合糖質で精密に覆われている。これらの複合糖質に発現する糖鎖発現の全貌を解明することは、その細胞における糖鎖発現の恒常性や糖鎖システム生物学を理解するために重要である。著者らは細胞に発現する糖タンパク質由来のN-結合型糖鎖とO-結合型糖鎖、スフィンゴ糖脂質、グリコサミノグリカン、遊離オリゴ糖を質量分析や液体クロマトグラフィで解析する方法を開発し、細胞に含まれる複合糖質糖鎖の全体像(総合グライコーム)が俯瞰できるようになった。総合グライコームは高度に細胞に特異的であり、細胞の記述子として有効であり、実際に既知の未分化細胞マーカーとともに新規なマーカー候補を網羅的に同定することに成功した。また、がんが不死化、がん抑制遺伝子やがん原遺伝子の異常、アポトーシスの抑制などの諸段階を経て足場非依存性増殖能や造腫瘍能を獲得するとする多段階発生説に基づき、ヒト正常アストロサイトに段階的な遺伝子操作を行って作製したヒトグリオーマのモデル細胞の包括的な糖鎖発現を精査し、がん化の諸形質と糖鎖発現間の因果関係を大規模に抽出した。
ヒト正常アストロサイトにhTERT, SV40ERm RasV12およびmyrAKTを段階的に導入したヒトグリオーマモデル細胞を用いた糖鎖の包括的な解析によって明らかにされたがんの進展と糖鎖の発現変動の因果関係