液晶から生命をのぞく2

高橋 奏太
ソフトマター専攻・修士課程・1年
物理エソロジー研究室

 

先端生命科学研究院・生命科学院では所属の大学院生に対する「スキルアップ支援」を実施しています。

対象は、生命科学専攻(生命融合科学コース)またはソフトマター専攻に所属する、「MC-DC一貫短縮修了コース(※)」の学生、及び博士課程への進学を希望する優秀な学生です。学生の研究能力向上のため、学会参加などへの支援を行います。
(※)優秀な学生を対象に、標準修業年限(修士課程2年、博士後期課程3年)を短縮(修士課程1-1.5年、博士後期課程2-2.5年)しての博士学位の取得を目指すコース

 

支援を受けた学生によるレポートを紹介します。

液晶から生命をのぞく2

モデル生物を選ぶのは恐ろしくむずかしい作業だと思う。変形菌に入門して2年、考えれば考えるほど、この生き物はあまりにも特殊で、この生き物をわかったとしても他の生き物のことをわかる手助けになるのだろうかという葛藤が首をもたげてくるのだ。

私がRIKEN BDR Symposium 2023 “Transitions in Biology” に参加させていただいた理由の一つは、Kinneret Keren 氏が講演されるからである。マウスやショウジョウバエを主戦場にする人々に混じって、氏が扱ってきた生物、そして解析の手法は異彩を放っている。とくに今回の講演トピックである「ヒドラの形態形成の物理」では、その体をおおう繊維状分子の並び方に着目して解析。そこでは液晶の物理などで知られる数理的な概念「トポロジカル欠陥」が、まるで生化学的な物質 (morphogen) のように機能して位置情報を示すという。論文は一躍話題になった。

実際に演台で目撃した彼女は独特の気迫のある人で、少したじろいでしまった。しかしその内容に、読んだ論文の解釈と噛み合わない点があって、とても気になる。翌日なんとか拙い英語で話しかけてみると、演台にいたときよりずっと柔和な雰囲気で、論文には書かなかったという悩ましい点を教えてくれた。いっぽう、実際の現象はもっと複雑でダイナミックなのだと語る目はやはり鋭いものがあった。

相互の距離の近さ故、小規模のシンポジウムではこのようなおこがましいコミュニケーションすら成立してしまうのだ。一方通常の研究活動では、どうしても大規模な学会への参加に偏りがちなのは否めない。今回の支援は、こうしたところにも手が届くものであるように思う。

ポスター発表では議論が盛り上がりとても楽しかった。 学会HP(https://www2.bdr.riken.jp/sympo/2023/photos-j.html)より許可を得て転載。