理学部生物科学科(高分子機能学)では、キャリアパス教育の一環として、3年生を対象にした学科イベント「DCは語る」(DC:Doctoral Course=博士課程)を定期的に開催しています。博士課程の学生の研究生活や進学経験を聞くことで、進路の一つとして博士課程進学を考えてもらうことが目的です。2022年7月22日は、生命科学院生命融合科学コース 博士1年の藤本 愛(ふじもと あい)さんが話しました。
藤本さんは、修士課程から細胞機能科学研究室に所属し、北村朗 講師の元で研究を進めています。
不思議さに魅せられて
関西で生まれ育ち、大学までを過ごしました。大学では薬学部に在籍し、卒業研究はパーキンソン病をテーマに選びました。興味を持ったきっかけは、パーキンソン病のような神経変性疾患がとても近い存在だったことです。
神経変性疾患では、神経の中にタンパク質の凝集体が作られます。それが毒になり、体が動かなくなったり、認知症になったりします。タンパク質凝集体があるだけで、神経が死んでしまい、体を動かせなくなることが、とても不思議でした。
特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と、その原因タンパク質TDP-43を研究したいと考えました。TDP-43というキーワードでたどり着いたのが、現在の指導教官である北村講師です。研究室まで訪ねて行って「TDP-43の研究をさせてください!」とお願いしました。こうして、修士課程から北海道に来ることになったのです。
新たな疑問を胸に博士課程へ
ALSは、運動神経細胞の中にTDP-43の固まりができることで、動けない、声が出しにくい、呼吸がしにくいなどの状態になる難病です。私はTDP-43の凝集を抑制するRNA(リボ核酸)について研究をすることになりました。
まずタンパク質TDP-43を精製することから始めましたが、初めはきれいなタンパク質がなかなか取れませんでした。次に、TDP-43に結合するRNAを探しましたが、測定方法を習得するのに苦労しました。さらに、細胞にRNAを導入し、TDP-43の凝集が抑制されるかどうかを調べます。この時は、凝集体ができないことや、細胞が死んでしまうことが問題になりました。あれこれ模索した結果、RNAの導入で凝集体が減ることが分かり、特許を出願して論文も投稿することができたのです。
修士課程で一つの成果を出せたのですが、さらなる疑問が生まれてきました。RNAは、どのようにしてタンパク質の凝集を抑制しているのか?それは、動物や人の脳神経細胞でも有効なのか?分からないことや確かめたいことがたくさん出てきたので、研究を続けるため博士課程に進学しました。
乗り越えたことが自信に
博士課程は楽しいことばかりではありません。研究面でも私生活でも将来への不安があります。でも、大変なことを少しずつ乗り越えて出した結果は、自分にとって大きな自信になります。こうした経験を得られることが、博士課程の魅力だと思っています。
現在は、タンパク質凝集のライブイメージングを目指しています。RNAがどこでタンパク質の凝集を止めているのか、生で見られると思うとワクワクします。こんなに研究にハマるとは思っていませんでしたが、今は思う存分、研究を楽しんでいるところです。