数理生物学と奈良のシカ

明石 涼
生命融合科学コース・修士課程・2年
数理生物学研究室

 

先端生命科学研究院・生命科学院では所属の大学院生に対する「スキルアップ支援」を実施しています。

対象は、生命科学専攻(生命融合科学コース)またはソフトマター専攻に所属する、「MC-DC一貫短縮修了コース(※)」の学生、及び博士課程への進学を希望する優秀な学生です。学生の研究能力向上のため、学会参加などへの支援を行います。
(※)優秀な学生を対象に、標準修業年限(修士課程2年、博士後期課程3年)を短縮(修士課程1-1.5年、博士後期課程2-2.5年)しての博士学位の取得を目指すコース

 

支援を受けた学生によるレポートを紹介します。

数理生物学と奈良のシカ

私は今回生命科学院のスキルアップ支援を活用させていただき、9月4~6日に奈良女子大学で開催された2023年度数理生物学会年会(JSMB2023)に参加してきました。

私の所属する研究室名にも含まれている「数理生物学」は、数理的手法を用いて生物の研究を行う学問です。そう聞くと難しく、また馴染みがなく聞こえますが、実は数理生物学は身近なところで活躍しています。具体的には、感染症の拡大予測、外来種や資源動物(魚など)といった生物の個体数の管理、生き物の進化などです。参加したJSMB2023でも生態や、進化、感染症、免疫、発生など多岐にわたる分野の数理生物学について発表が行われていました。その中でも特に自分が興味を持っている生態や進化の発表はただ興味深いだけでなく、自分の研究の直接的に役に立つものでもありました。

会場である奈良女子大のすぐ近くには奈良公園があります。奈良公園には国指定の天然記念物である「奈良のシカ」がおよそ1200頭生息しています。奈良のシカは約1000年以上前にヒトとの関わりから、他の集団と交流を絶ったと言われており(Takagi et al. 2022)、ヒトとの歴史的関わりが深い生き物です。現在でも多くの観光客が奈良のシカを目当てにして、奈良公園を訪れています。

私はこういった奈良のシカの生態を知る、ヒトが奈良のシカに与えている影響を知る、奈良のシカがどのような役割を生態系で果たしているか、これらを考え・研究する上で数理生物学が有用であると考えています。今回参加したJSMB2023で学んだ手法や考え方、哲学を元にして研究をますます進めていければと思います。最後に、このような有意義な機会を提供していただいたスキルアップ支援に対して、改めて感謝申し上げます。

調査中の筆者と奈良のシカ
記録のため、シカを撮影する筆者
シカの腸内環境を調査のため、シカ糞を採取する筆者