食中毒が起きたとき、原因菌の抗原を調べることは感染対策のために重要です。大腸菌などの抗原(糖鎖型)を短時間で同定する方法を研究したのが、浦上 彰吾(うらかみ しょうご)さん(生命科学院 生命融合科学コース 博士後期課程2年)です。2024年6月13日に出されたプレスリリース「O157など菌の糖鎖型を素早く同定」について、浦上さんにインタビューしました。
―「菌の糖鎖型」とは何ですか?
大腸菌などの細菌は、最外部に「糖鎖」を持っています。糖鎖とはグルコース(ブドウ糖)のような単糖が、つながりあったものです。持っている糖鎖によって、同一菌種の間を区別することができます。例えば大腸菌O157では「O157」が「糖鎖型」を表しています。
―なぜ、この研究をしようと思ったのですか?
以前行った研究で、糖鎖だけを選択的に検出する方法を発見しました。より臨床現場で利用できる手法に発展させたいと考え、大腸菌などが持つO抗原(糖鎖型)糖鎖の構造を解析することにしました。
―どのような方法で研究しましたか?
大腸菌などのグラム陰性菌は、外膜にリポ多糖という成分を有しています。そのリポ多糖の外側の成分がO抗原と呼ばれており、O抗原は2~6個程度の単糖の繰り返し構造によって構成されています。
生菌から直接、酸加水分解によって、糖と糖の間を切断していきました。その断片化した糖鎖を遠心分離で抽出して、測定しました。
生菌から簡易的な抽出しか行っていないため、様々な不純物が混入している可能性があります。糖鎖を選択的に検出する方法を活用することで、高感度な測定を可能にしました。すでに糖鎖構造が分かっている菌なら、できる糖鎖断片の質量が予想できます。調べたいO抗原(糖鎖型)を持つ生菌から糖鎖断片を作って質量分析し、既知のO抗原の構造と比較して糖鎖型を判定しました。
―どのような結果が得られましたか?
大腸菌O157などの構造を迅速に検出できました。従来の質量分析による測定法では、煩雑で時間のかかるリポ多糖の抽出・精製が必要でした。今回、糖鎖を選択的に検出する方法を活用することで、1時間以内と短時間で同定できました。
―今回の結果は、どのようなことに役立ちますか?
菌の抗原の同定は、感染経路の特定などにつながります。素早く判定できることで、集団感染の早期収束に役立つと考えられます。また、この方法を使うと微生物の新しいO抗原(糖鎖型)の発見も期待できます。
社会に普及していく可能性があるので、研究意欲が湧きます。いろいろな人に使われる技術を作れたらうれしいです。
関連サイト
北大プレスリリース:O157など菌の糖鎖型を素早く同定~グラム陰性菌の“未知” O抗原発見が可能な迅速同定法を実現~(2024年6月13日)
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