時分割X線回折像から粒子の回転を調べる新規手法を開発高分子複合材料のナノ物性メカニズム解明に期待

北海道大学大学院先端生命科学研究院の新井達也助教、相沢智康教授、及び東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授らの研究グループは、時分割X線回折像から高分子複合材料におけるナノ粒子の回転ダイナミクスを測定する新たなX線活用手法の開発に成功しました。

高分子にナノ粒子を添加した複合材料は、ゴムやプラスチックなどの様々な材料として広く使用されています。これらの材料の柔らかさや耐久性は、内部に分散したナノ粒子の運動性、特に回転運動に大きく依存します。したがって、ナノ粒子の回転運動を可視化する手法は材料開発において極めて重要ですが、そのような運動を汎用的に観測する方法はこれまでほとんど存在しませんでした。研究グループは、時分割X線回折像からナノ粒子の回転運動を抽出する新しい手法「Diffracted X-ray Blinking(DXB)法」を開発し、様々な高分子中のナノ粒子に適用しました。この手法では、X線回折強度の揺らぎを自己相関関数(ACF)で解析することで、ナノ粒子の回転運動を推定します。この解析手法により、時分割X線回折像から高分子中のナノ粒子の回転運動を捉えることに世界で初めて成功しました。さらに、これらの高分子の温度変化や相転移に伴うわずかなナノ粒子の回転運動の変化も可視化することに成功しました。今回の成果は、高分子材料の粘弾性や相転移の機構をナノスケールで直接評価する新しい手法を提示するものであり、今後の高分子材料研究や新素材開発への大きな貢献が期待されます。

なお、本研究成果は、2025年9月14日(日)公開のNano Lettersに掲載されました。

【ポイント】
  • 時分割X線回折の強度揺らぎから、高分子中の粒子の回転ダイナミクスを計測。
  • 固体から液体までの様々な材料で測定可能な事を実証。
  • 温度変化や結晶化状態を鋭敏に反映し、材料のナノスケール構造変化を可視化可能。
 
DXB法の概略図。ナノ粒子を含む高分子材料に対してX線を照射し、時分割のX線回折像を取得した。その際に、ナノ粒子の自発的な回転によりX線回折強度が揺らぎ、その強度揺らぎに対して自己相関関数解析を用いることで、粒子の回転の速さを推定する。

プレスリリース:時分割X線回折像から粒子の回転を調べる新規手法を開発~高分子複合材料のナノ物性メカニズム解明に期待~(先端生命科学研究院 助教 新井達也)