北海道大学大学院先端生命科学研究院の上原亮太准教授及びインド工科大学ボンベイ校のスリラジャ=ナイア准教授らの研究グループは、ゼブラフィッシュ胚でゲノムを1コピーしか保有しない「半数体」状態で発生不全が生じる原因の一端を細胞レベルで明らかにしました。
脊椎動物の多くは、母方父方のゲノムを1コピーずつ保有した二倍体状態で存在し、半数体は胚性致死となることが知られています。これは、動物種の生活環における厳密な進化的制約であると考えられますが、一揃いの完全なゲノムをもつにも関わらず半数体が許容されない理由は長年謎でした。
本研究では、ゼブラフィッシュを材料に、半数体モデル胚を作製し、その発生過程における細胞レベルの異常を、正常二倍体との比較イメージング解析・生化学解析によって調べました。この結果、半数体胚では組織成長期に全身的な細胞死と細胞分裂の停滞が生じ、十分な成長が妨げられていることが明らかになりました。さらに、細胞死と分裂停滞が、それぞれp53遺伝子の異常亢進と中心体喪失による分裂期チェックポイントの作動によって引き起こされていることを突き止め、半数体で顕著な発生不全が生じる分子・細胞レベルの要因の一端を明らかにすることに成功しました。
これらの知見は、脊椎動物における生活環進化の制約が形成された原理の理解の一助になるとともに、遺伝子工学や育種分野における半数体資源開発のための重要なヒントを提供するものと期待されます。
本研究成果は、2024年10月9日(水)公開のOpen Biology誌に掲載されました。
【ポイント】
- ゼブラフィッシュ半数体の発生障害の一端が著しい細胞死と細胞分裂停滞に因ることを発見。
- 細胞死はゲノム異常を監視するp53遺伝子の亢進に因ることを特定。
- 細胞分裂停滞は、半数体特有の中心体喪失が起こす紡錘体チェックポイントに因ることを解明。
プレスリリース:ゼブラフィッシュ半数体症候群の細胞異常を特定~脊椎動物における生活環進化の100年来の謎に迫る~(先端生命科学研究院 准教授 上原亮太)