ガレクチンタンパク質間を繋ぐ仕組みを再現ジストロフィー癌治療の新たな糸口

北海道大学大学院先端生命科学研究院の比能 洋教授、相沢智康教授、西村紳一郎教授、及びミュンヘン・ルートヴィヒ=マクシミリアン大学のハンズ・J・ガビウス教授(故人)、ヘルベルト・カルトナー教授らの研究グループは、筋ジストロフィーの原因となる糖鎖不全が生じた糖タンパク質に、ガレクチン1を添加することで、細胞外の成分との相互作用が再生することを示しました。

ポイント
  • ガレクチン1がラミニンとジストログリカン糖鎖不全モデル糖ペプチドを架橋することを実証。
  • ガレクチンが同一タンパク質上(シス)結合からトランス架橋に変化する仕組みの提案に成功。
  • 筋ジストロフィーや癌治療の新戦略に繋がる発見。
研究成果の概要

筋ジストロフィーは、筋肉細胞や神経細胞と、細胞外成分との相互作用が低下して生じる先天性疾患です。特に、ジストログリカノパシーと呼ばれる疾患では、筋・神経細胞の表面に存在するαジストログリカンという糖タンパク質上で、O-マンノース型と呼ばれる糖鎖がうまく形成されません。そのため、αジストログリカンと、細胞外成分の一つであるラミニンとの相互作用がうまくいかずに、疾患が起こります。ガレクチンは、ガラクトースを含む糖鎖に結合しやすいレクチンの仲間で、細胞の分化、再生、炎症、免疫、癌など幅広い生命現象を調整しています。

比能教授らの研究グループは、ジストログリカノパシーを起こすような糖ペプチドを合成してライブラリを作成し、ガレクチン類との相互作用を調査しました。その結果、ガレクチン1が、この不完全なO-マンノース型糖鎖を持つαジストログリカンと強く相互作用することを発見しました。さらに、ガレクチン1が存在することで、糖鎖が不完全なαジストログリカンでも、ラミニンとの相互作用が再生することを示しました。

この成果は糖鎖不全筋ジストロフィーに対し、新しい治療戦略を提案するものです。

なお、本研究成果は、2022年10月23日(日)公開のScientific Report誌及び2023年3月9日(木)公開のChemBioChem誌にオンライン掲載されました。本研究成果は,北大プレスリリース(https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/03/post-1202.html)にも掲載されていますので,より詳しい内容はそちらの記事もご覧下さい。

ガレクチン1はF-faceの相互作用を介して糖タンパク質を繋ぐ
論文情報
論文名 Exploring the In situ Pairing of Human Galectins toward Synthetic O-Mannosylated Core M1 Glycopeptides of α-Dystroglycan合成O-マンノシル化コアM1型糖鎖を有するαジストログリカン糖ペプチドに対するヒトガレクチン類のIn situペア探索)
著者名 Lareno L. Villones Jr.、Anna-Kristin Ludwig、久米田博之、菊池星矢、越智里香、相沢智康、西村紳一郎、Hans-Joachim Gabius、比能 洋(北海道大学大学院先端生命科学研究院、ミュンヘン・ルートヴィヒ=マクシミリアン大学)
雑誌名 Scientific Report
DOI 10.1038/s41598-022-22758-0
公表日 2022年10月23日(日)
論文名 Altering the Modular Architecture of Galectins Affects its Binding with Synthetic α-Dystroglycan O-Mannosylated Core M1 Glycoconjugates In situガレクチン類のモジュール構造が合成O-マンノシル化コアM1型糖鎖を有するαジストログリカン糖ペプチドに対するIn situ相互作用に与える影響)
著者名 Lareno L. Villones Jr.、Anna-Kristin Ludwig、菊池星矢、越智里香、西村紳一郎、Hans-Joachim Gabius、Herbert Kaltner、比能 洋(北海道大学大学院先端生命科学研究院、ミュンヘン・ルートヴィヒ=マクシミリアン大学)
雑誌名 ChemBioChem
DOI 10.1002/cbic.202200783
公表日 2023年3月9日(木)