ここ数年、外出時に混雑を気にすることが多くなりました。一方、私たちの体内に目を向けると、細胞の中も混雑することがあるのだそうです。
細胞内の混み具合を研究しているのが、北村 朗(きたむら あきら)講師(先端生命科学研究院)です。2023年7月26日にプレスリリース「高速な細胞内分子クラウディングセンサーの開発に成功」を出した北村講師にインタビューしました。
―細胞の中が混雑するのは、どのようなときですか?
例えば、細胞の周りで塩分濃度が高くなったときです。ちょうど野菜に塩をふったときのように、細胞内の水分が外へ漏れ出します。すると細胞が縮み、中はタンパク質などの分子で混み合った「分子クラウディング状態」になります。
―混雑は、どうやって調べるのですか?
使ったのは、光るタンパク質eGFP(単量体緑色蛍光タンパク質)です。
eGFPの光るしくみは蛍光です。蛍光が起こるとき、分子は光を吸収してエネルギーの高い状態になります。そのあとで、余分なエネルギーを別の色の光として放出します。光を吸収してから放出するまでの時間を「蛍光寿命」といいます。
eGFPを入れた細胞に塩の溶液をかけて混雑を起こします。細胞内が混雑するとeGFPの蛍光寿命は短くなります。つまりeGFPの蛍光寿命の長さは、混雑具合が分かるセンサーになるのです。
これまでも混雑センサーとして使われていた分子はありましたが、それよりも高性能なんですよ。
―どのような点で高性能なのですか?
eGFPは従来の分子に比べて小さいため、混雑している箇所を細かく調べられます。また塩の溶液をかけたときに、蛍光寿命が変化してから落ち着くまでの時間が短いので、細胞内の変化を迅速に感知できます。
―細胞内の混雑を調べる目的は何ですか?
細胞内ではタンパク質が集まって「凝集体」を作ることがあります。凝集体はアルツハイマー病などの神経変性疾患につながると考えられています。一方で、細胞内の混雑を解消するために凝集体が作られることもあります。
細胞が状態を一定に保って生存していくことと、凝集体との関係を明らかにしたいと思っています。それには凝集体が出来始める瞬間を捉えることが重要なのですが、ちょっと問題がありまして…。
―問題とは?
蛍光寿命を測定できる装置が、なかなかないのです。
―今回の測定は、どうしたのですか?
スウェーデンのカロリンスカ研究所と共同研究を行い、先方が開発した蛍光寿命イメージング装置で測定しました。2人の大学院生(当時)が向こうに滞在して測定したデータが、論文の元になっています。
―なるほど。共同研究という手がありますか。
大学院生のとき、研究室に顕微鏡が少なく、使いたいときは外で借りていました。以来、目的を達成するために装置を追い求めて行動しています。共同研究のための知り合い作りも心がけてきました
―共同研究には、学生の力も大きいですね。
教員は、研究室の運営などを考えると、海外に長期滞在するのは容易ではありません。でも学生が行ってデータを取ってくれれば、今はZoomなどでやりとりもできるので、研究が進みます。上手に共同研究することが大事ですね。
―手元に装置がなくても研究できますか?
装置を借りた場合、測定は短い期間しかできません。凝集体が出来る瞬間を捉えるには、やはり長期的な測定が必要です。蛍光寿命を高精度に測れる装置は導入したいと思っています。高額なので、大学の共同機器などで実現できるといいのですが。
―今後、研究していきたいテーマは?
タンパク質の凝集体に興味があって研究を続けてきました。凝集体にもいろいろなタイプがあります。話し出すと長くなりますが…。
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凝集体好きだという北村講師。お話の続きはまた別の機会に、お届けできればと思います!
インタビュー映像
インタビュー映像(出演:北村 朗 講師、編集:高分子 学生広報チーム)
関連サイト
北大プレスリリース:高速な細胞内分子クラウディングセンサーの開発に成功~高浸透圧ストレス下における分子クラウディング状態変化の解明に期待~