新型コロナウイルスは、次々と変異株が現れて進化を続けています。ウイルスの進化には人間の行動も関係している、という驚きの研究結果が発表されました。
2023年11月22日に出されたプレスリリース「AI技術で新型コロナウイルスの進化メカニズムを分析~ウイルスの進化予測を踏まえた感染症対策の第一歩~」について、論文の筆頭著者の一人である砂川 純也さん(生命科学院 生命融合科学コース 博士1年)に話を聞きました。
―どのような研究ですか?
ワクチンや治療薬によって免疫が作られると、ウイルスはそれを回避する形で進化すると言われています。この研究では、人間の行動もウイルス進化の原因になり得ることを提案しました。
―研究のきっかけは?
共同研究者である岩見 真吾 教授(名古屋大学)のアイデアから始まりました。岩見教授のグループが持っていた新型コロナウイルスのデータに、僕と山口 諒 助教(先端生命科学研究院)が取り組んでいた「進化計算」を組み合わせることになったのです。
―進化計算とは?
ある能力を持った生物が、ある環境で生きていたとします。まず、その環境における能力の高さを個体ごとに評価します。次に、能力が高い個体の特徴を引き継ぐように、子どもの集団を作ります。さらに、その環境で有利になるように後の世代を作っていきます。つまり、ある問題設定に対してよりよい解決能力を持った個体を作ろうとする計算です。
―今回は、どのような計算をしたのですか?
ウイルスの性質として「まだ感染していない細胞に感染する確率」と「感染した細胞で複製できるウイルスの量」を考えます。二つの量を変えたときの、体内ウイルス量の時間変化をシミュレーションしました。
―どのような結果になりましたか?
感染したことが分かった人は隔離されますよね。感染から隔離までの時間が短くなると、ウイルス量のピークは増加し、ピークの時期も早まりました。実際の臨床データでも同じ傾向が見られます。つまり、人間の隔離という行動によってウイルスが進化した可能性があるのです。
―なぜ、そのように進化するのでしょう?
隔離されてしまうとウイルスは繁栄できません。そのため、症状が出る前にウイルス量を増やして次の人間に移れるようなウイルスが生き残ったと考えられます。
―隔離することでウイルスが進化してしまう。困りますね。
今回のシミュレーション結果を使えば、隔離のタイミングから進化するウイルスの性質を予想できます。ウイルスの進化予測が、これからの感染症対策につながればと思います。
―今後は、どのような研究をしていきたいですか?
プログラミングに興味があり、この数理生物学研究室を選びました。計算を使った理論研究は、とてもおもしろいと感じています。ただ、他の研究室の同期などに話すと「その結果はどれくらい信用できるのか?」と言われてしまいます。シミュレーションだけで、実験をしていないからです。
実験と理論研究を一緒にできるテーマとして、微生物の進化に注目しました。実験室で酵母を育てて研究を始めています。自分で考えた研究テーマでも成果を出していきたいです。
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砂川さんが作ったプログラムは公開されています。それを使って他の人が別の解析をすることも可能なのだそうです。
関連サイト
プレスリリース:AI技術で新型コロナウイルスの進化メカニズムを分析~ウイルスの進化予測を踏まえた感染症対策の第一歩~(先端生命科学研究院 助教 山口 諒)
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