イオン液体の表面で幹細胞の培養に成功 ~再生医療に貢献する細胞資源の培養効率、大幅引き上げにむけて

北海道大学大学院生命科学院ソフトマター専攻博士課程(学振特別研究員DC)の上山祐史氏、同大学大学院生命科学院の上木岳士客員准教授、物質・材料研究機構(NIMS)の中西淳グループリーダーらの研究グループは「イオン液体」とよばれる液体の表面で、再生医療でも広く利用されるヒト間葉系幹細胞を培養する技術を確立しました。従来はプラスチック皿で行われてきた有用細胞資源の培養効率を大幅に引き上げることが可能になると同時に、培養時に排出されるプラスチックごみの削減につながることが期待されます。イオン液体は蒸発しないため、環境に拡散していきません。これまでは使い捨てにされてきたプラスチック皿と異なり、細胞培養後に回収、洗浄、加熱/乾燥による滅菌まで可能で、環境に優しいリユーザブルな“液体”細胞培養基材に展開される重要な一歩となります。

通常、再生医療等に適用可能な(幹)細胞の培養、増殖にはプラスチック皿のような固体の平面が用いられます。これに対して水と混ざり合わない油のような液体の表面で細胞が培養できれば、培養効率(体積当たりの有効な培養表面積)を大幅に引き上げられるため、古くから研究が進んできました。これは増え続けるプラスチックゴミを削減できるばかりか、液体の特徴を活かしたろ過による細胞の分離・回収や、培養プロセスの完全オートメーション化などの技術革新が望めます。その一方で、これまで研究に用いられてきたフッ素系液体は細胞毒性こそ低いものの、プラスチック皿より高価であり、なおかつその自然環境下における低い化学的分解性が「永遠の化学物質」「PFAS問題」としてクローズアップされており、細胞培養技術の進化に対する代償として、その高コスト化と高環境負荷が懸念されていました。

今回、研究チームは、水と混ざり合わず、細胞毒性が極めて低いイオン液体を見いだし、その表面でヒト間葉系幹細胞を培養することに成功しました。イオン液体はプラスとマイナスのイオンのみからなる液体ですが「液体なのに蒸発しない、沸騰しない」ことが大きな特徴です。細胞培養に用いた液体を洗浄、加熱、乾燥、滅菌することで、使い捨てることなく再利用することが可能になります。

本研究成果は、2024年2月26日にAdvanced Materials誌にオンライン掲載されました。

従来の二次元細胞培養と本研究の提案するイオン液体三次元培養の比較

【物質・材料研究機構(NIMS)プレスリリース】イオン性の液体表面で幹細胞の培養に成功~再生医療に貢献する細胞資源の培養効率、大幅引き上げに向けて~