私たちの体内では、分子と分子が結合することで様々な生命現象が起こります。生命を研究する上で、分子の構造を調べることは欠かせません。
谷口 透准教授(先端生命科学研究院)は、光を当てる方法を使って、分子の構造について研究しています。谷口准教授の発表した論文「重水素化された糖のラマン光学活性研究:構造解析の手段としての重水素標識」(2024年7月出版)について、話を聞きました。
―なぜ、この研究をしようと思ったのですか?
薬は体の中のタンパク質とくっつくことによって良い働きをします。最近では高分子を薬として使う研究も盛んです。
多くの原子がつながった高分子は、折れ曲がったり、伸びたり、結合部が回転したりと、いろいろな形を取ります。同じ分子でも、形によっては薬として機能しません。そのため、どのような形をした分子が、どのくらいの割合で存在するかを調べることが重要になります。
―どのような方法で研究しましたか?
分子にレーザー光を当てると、光の吸収や散乱が起こります。回りながら進む光(円偏光)を当てるのですが、右回りの光と左回りの光では、散乱される光の強さが少しだけ異なります。わずかな差から、分子の構造についての情報が得られます。この方法をラマン光学活性分光法といいます。
―どのような結果が得られましたか?
分子中の水素を重水素(※)に置き換えると、さらに細かい構造が分かることを実証しました。今回はグルコースという単純な糖を調べましたが、重水素を使う方法は他の高分子にも応用できます。
(※)重水素:水素の原子核は陽子1個でできているが、重水素の原子核は陽子1個と中性子1個でできている。つまり重水素の方が水素より少し重い。
―今後、どのような研究をしていきたいですか?
構造が分かっていない高分子は、まだたくさんあります。糖、脂質、タンパク質、核酸などの構造を引き続き解析していきます。また薬を体の必要な部分に届けるための、新しい素材も作っていきたいです。
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