研究者インタビュー「糖を知りたい!甘さだけじゃない糖の魅力」(比能教授)

糖というと、お砂糖?糖質とか血糖値とかも聞くけど、甘いものでしょうか?
そんな糖について研究しているのが、比能 洋(ひのう ひろし)教授(先端生命科学研究院)です。比能さんは今年3月に「糖タンパク質から直接糖鎖だけを調べる技術を開発」したというプレスリリースを出しています。
甘いものは好きだけど、糖鎖って何だろう?糖鎖を調べると何が分かるの?ということで、比能さんの研究室を訪ねて詳しくお話を聞いてみました。

―糖鎖って何ですか?

糖には、まずブドウ糖(グルコース)や、果物に含まれる果糖(フラクトース)などがあります。これらは単糖という糖の種類です。そして、単糖同士は結合します。例えば、お砂糖はグルコースとフラクトースがつながった二糖です。また、グルコースにガラクトースという別の糖がつくと、牛乳に含まれる乳糖になります。結合する糖の組み合わせで、いろんな物質ができます。単糖がいくつかつながったものをオリゴ糖といいます。糖がつながったものが糖鎖です。なので、お砂糖も、乳糖も、オリゴ糖も糖鎖です。

―糖鎖はどうして大事なんでしょうか?

例えば血液型。A型とB型の血液では、赤血球についている、ある糖鎖のたった一か所の構造がちょっと違っている。この違いがA型とB型の違いを決めています。たった一か所が違うだけで、同じ人間同士でも、免疫は違う生物として見分けてしまって、輸血もできなくなるんです。糖鎖っていうのは、それくらい重要なものです。
あるいは、ヒトとサルの違いです。ヒトとサルの違いは、遺伝子が1%くらい違うって言われています。でも糖で言えば、一種類の糖が違うだけなんです。

分子模型で糖について説明いただく

―その、ヒトとサルを分ける糖は、どこにあるんですか?

その糖、ノイラミン酸って、Neu(エヌイーユー)という略称なのですが、ニューロン(neuron)の頭文字なんですよね。ニューロンとは神経のことです。ノイラミン酸(Neu)は神経に特にたくさんあるものです。

―その糖がサルにはあったけれど、ヒトにはなくなった?

そうです。ヒトは複雑になったと言いますが、糖に関して言えば、ヒトは糖のバリエーションを単純化することで進化してるんです。ヒトとサルは、この糖のあるなしによって明確に区別がつきます。このように明確な差を生み出すのが糖です。
なぜ糖鎖が重要かというと、違いを生み出すからです。そして、違いを見分けるための目印になるからです。なんで目印になるのかというと、一番表にあるからです。

―糖が表にあるとは、どういうことでしょうか?

細胞の境目は脂質が作っています。そして、その表面には糖がくっついています。つまり、糖というのは、生物の体の外側を覆っているのです。僕たちはこれを糖の衣、糖衣(とうい)と呼んでいます。全ての生命体は糖衣で覆われています。
人を見分ける時には外見で、服や髪の色などで見分けますよね。それと同じように、糖が違えば、どういう血液型の人か、どういう動物か、ということが分かります。なので、糖というのは目印になるのです。
糖の違いを見分けられるということは、すごい重要なことなんですね。

―今回プレスリリースされた研究のポイントは?

今回は、タンパク質についた糖を直接解析できるようになりました。
今までは、糖を見分けるために、ものすごくたくさんの手間がかかったんですね。先に、タンパク質についている糖を切って、糖だけをきれいに分けなきゃいけなかったんです。それこそ今、学生実験で学生たちに指導しているんですけど、教えるのに一週間かかる技術です。それが、糖のついたタンパク質にマトリックス(試薬)を混ぜて、ポン!とレーザーを当てるだけで、糖だけが見られる技術を初めて作ったんです。ワンステップで、糖の違いを見ることができるようにしたんです。

糖を解析するための実験装置

―今回の研究成果から、どんなことが期待されますか?

一つは診断です。体の中の糖タンパク質を見れば、病気の診断ができます。例えば、がんにかかっていると体内で増える糖鎖がありますが、それをすぐに調べられることにつながる技術です。
もう一つは薬、バイオ医薬品の性質の予測です。薬についている糖のパターンを調べれば、どれだけその薬が体内で働くかを予測できます。

―今回の成果に至るまでに、苦労したのはどんなことでしたか?

とにかく苦労したのは、糖を見るための試薬の組み合わせを探すことですね。これらの組み合わせは全て自分で考えて、作って、比較しました。このうち一個だけがマトリックスとしてよく働いたんです。これは作ったライブラリ(試薬の組み合わせ)の一部ですが、ここから当たりを探すのが大変でしたね。

たくさんの試薬サンプル

―これからどのように研究を進めたいですか?

もっと感度よく糖を見られるようにしたいです。例えば、卵白の表面についている糖鎖を直接見ます。きれいなタンパク質じゃなくて、いろんなものが混じっていても、その中にある糖だけを見ることができるようになります。
感度を上げて、とにかく型を見分けたいです。例えば、インフルエンザにはいろんな型があります。そして、大腸菌、出血性大腸菌にもO157などの型がありますよね。そういう型を一発で見分けることができるようにしたいと思っています。

―そもそも、どうして糖鎖の研究を始められたんですか?

僕はマラソンを走っていまして。マラソンを走っていると、血糖値のコントロールって、すごく大事なんですよ。疲れやすさが決まりますので。飲み物などに含まれている糖の種類をコントロールすると、血糖値の上がりやすさが変わるということを聞き、糖っておもしろいなと思いました。知らない人にとっては同じ糖なのに、全然機能が違うということが非常におもしろいと思いまして。これを突き詰めて、利用できるような研究がしたいなと思ったのがきっかけです。

論文アクセス数、月間ナンバー1!

今回の研究成果をまとめた論文は、分析化学の専門誌の表紙を飾り、その雑誌サイトでのアクセス数が月間ナンバー1の論文にもなったそうです。
糖について熱く語る比能さんからは、糖への愛があふれ出ていました。私たちはみんな糖に覆われて生きていたんですね。そんな糖のことをもっと知って、いろいろなことに役立てていけたらすてきですね。

 

北大プレスリリース
糖タンパク質から直接糖鎖だけを調べる技術を開発~MALDIグリコタイピング:バイオ医薬品等の研究開発や分子診断の迅速化と低価格化に期待~(先端生命科学研究院 教授 比能 洋)
https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/03/maldi.html