上皮細胞シート3次元形態形成 ~浸透圧勾配と細胞外基質の不均一膨潤がもたらすドーム構造形成

芳賀永教授(大学院先端生命科学研究院)らの研究グループは,浸透圧勾配によってハイドロゲル上の上皮細胞シートが安定性な3次元ドーム構造を形成することを発見しました。

私たちの体の臓器は複雑な形を有していますが,それらの形がどのようにできているのかはほとんど分かっていません。浸透圧は,尿の生成等に関わっているなど,生命を維持する上で必要不可欠な物理現象です。近年,浸透圧勾配が生物の3次元構造を作る上で重要であることが報告されつつあります。浸透圧勾配が3次元構造の形成に与える影響について調べるためには,実験条件を人為的にコントロールできるインビトロの実験系が有用です。しかしながら,これまでのインビトロの実験系では,細胞に浸透圧勾配を与えても生体内で見られるような安定性を有した3次元構造を再現することはできませんでした。

芳賀教授らの研究グループは,生体内に近い環境を再現するため,細胞外基質を模倣したハイドロゲル上で上皮細胞シートに浸透圧勾配を与える実験系を新たに確立しました。この実験系により,平らなシート状だった細胞集団が同時多発的に盛り上がり,ドーム状の構造が現れることを発見しました。さらに,このドーム状の構造は,これまでのインビトロの実験系では見られなかった安定性を有していました。詳細な観察の結果,ドーム状構造が出来る過程ではハイドロゲルが不均一に膨潤していることが分かりました。

さらに,秋山正和准教授(明治大学先端数理科学インスティテュート)らの研究グループと共同で数理モデルを構築し,不均一なハイドロゲルの膨潤は,細胞が自身の厚み依存的に頂端部側の水をハイドロゲル側に輸送することによって起こることをシミュレーションで再現しました。

浸透圧勾配により安定な3次元構造が生じることをインビトロの実験系で示したのは本研究が初めてであり,浸透圧勾配が私たちの体の3次元構造を形作り上で重要な働きを示すことが示唆されました。

本研究成果は,2020年7月27日(火)公開のJournal of Cell Science誌に掲載されました
Ishida-Ishihara et al., JCS, 2020)。

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