先輩は語る:やりたいことに従って

理学部生物科学科(高分子機能学)では、学部生を対象にしたキャリアパス教育イベント「先輩は語る」を定期的に開催しています。卒業生が、学生時代の経験や現在の仕事について語ることで、学生に進路を考えてもらうことが目的です。2024年6月4日は、コスモ・バイオ株式会社の大西 克弥(おおにし かつや)さんが学部3年生に向けて話をしました。

大西 克弥さん

大西さんは2018年に理学部生物科学科(高分子機能学)を卒業後、生命科学院 ソフトマター専攻に進学しました。2023年にコスモ・バイオ株式会社に入社し、2024年3月に博士の学位を取得しています。

 

興味に沿って選んだ進路

高分子機能学に進んだ理由は、生物を勉強してみたかったからです。高校では物理・化学を選択し、生物を勉強する機会がありませんでした。高分子機能学であれば生物の勉強・研究に加えて、物理や化学も扱うので、自分の知識や経験が生かせると考えました。

3年次に研究室を選択する際、「がんの研究ができる」と聞いて興味を持ち、細胞ダイナミクス科学研究室を選びました。がんを発症するとがん細胞の周辺の組織は硬くなることに着目して、逆に物理的な硬さががん細胞にどのような影響を及ぼすのかについて研究しました。

特に「転写因子」に注目しました。転写因子はDNAに結合し、遺伝子の発現を調節するタンパク質です。転写因子は細胞の核に入ることで働くようになります。がんでは、特定の転写因子が核に集まって働くことで、がん細胞が死なずに増殖するという問題が起こります。

博士前期(修士)課程の間に、硬さに応答して核に集まる新しい転写因子を発見し、その転写因子が核に集まるメカニズムも解明しました。これら2つの発見をしたことがとても嬉しくて、研究結果をパソコンの待ち受け画像にして毎日眺めていたことを覚えています。また、この世の誰も知らなかったことを発見する喜びを経験できる基礎研究に強く惹かれ、博士後期課程進学を決めました。

博士後期課程では、硬さに応答して核に集まった転写因子ががん細胞の死を抑制することを新たに発見し、研究論文を発表しました。論理的な筋道をたてて取り組み続ければ成果を得ることができるという、かけがえのない経験をしました。大学での研究の経験は、仕事に取り組む指針になっています。

大学の基礎研究は、すぐには役に立たないかもしれません。私の研究もこれらの発見だけで薬ができるというわけではありません。それでも、基礎研究の積み上げが現在の画期的な治療薬の開発につながっており、意味のない研究はないと思っています。多くの人がいろいろな研究を積み重ねること、そして、それを続けられる環境を作ることが重要と考えています。

周囲の硬さの違いでがん細胞の形や細胞内部の転写因子の位置が変わる

研究者を支えたい

現在の勤務先は、ライフサイエンス研究の試薬を輸入販売する専門商社です。私の主な仕事は技術サポートです。研究者から商品について問合せがあると、メーカーとやり取りして、あるいは自分で調べて回答することで研究をサポートします。

海外メーカーとの意思伝達や膨大な数の商品の把握など難しさを感じることも多いですが、研究者に役立つ情報を発信できることや、幅広い分野の研究に触れられることにやりがいを感じています。これからも仕事を通じて、研究者が実現したいことを支えられるよう尽力していきたいです。

本心に従って行動を

今後みなさんは研究室配属、大学院への進学や就職など色々な選択をする必要があります。不安になることもあるかもしれませんが、ぜひ自分の本心を大切にして行動してください。やりたいことに素直に従っていけば、将来も自分のやりたいことを続けられると私は信じています。みなさんの学生時代が充実したものになることを心から祈っています。

アメリカ細胞生物学会 博士後期課程時代に海外学会に参加した時