みなさん、イカは好きですか?おいしいけれど、かみ切るのが大変なこともありますよね。イカの丈夫さを利用して材料を作ったのが、中島 祐(なかじま たすく)准教授(先端生命科学研究院)です。
2023年1月20日にプレスリリース「イカと合成高分子を複合した耐破壊性ハイドロゲルを開発~天然物由来の異方的構造・性質を持つ柔軟複合材料~」を出した中島准教授にインタビューしました。
―ハイドロゲルとは?
ゼリーのように、やわらかく水を含んだ材料です。高分子(原子が長くつながった、ひも状の分子)が網目構造を作り、内部に多量の水が閉じ込められています。次世代の医療材料としても注目されているんですよ。
―なぜ、医療材料に使えるのでしょう?
「やわらかく水を含んだ」特徴が、私たちの体に似ているため、生体に埋め込んで使うのに良さそうなのです。問題は、壊れやすいことです。
―丈夫にできないのでしょうか?
生体が丈夫な理由の1つは、異方性があるからです。例えば木材は、木目に沿った方向には割れやすく、木目を横切る方向には割れにくいですよね。これは、木の繊維が一方向に揃っているためです。
―ゲルには異方性がないのですか?
ゲルを普通に作っても、分子の向きは揃いません。人工的に分子を並べることもできますが、手間がかかります。すでに分子がきれいに並んだ、生体そのものを材料にした方が早い。
―それで、イカ、ですか…。
焼きイカを食べるとき、リング方向に繊維を感じるじゃないですか。このイカの筋肉を活用しました。食用のムラサキイカに、合成高分子を入れたのです。
―イカに高分子ですか。組み合わせた結果は?
繊維方向に引っ張っても、なかなか切れない材料ができました!人工の腱などに応用されることを期待しています。
―イカそのものを使ったことが、ポイントですね。
生物の構造をそのまま使うことで、今までにない丈夫さを出せました。今後は、野菜や植物でも成功させたいです。
―創発的研究支援事業(科学技術振興機構)に採択されたそうですね。どのような事業ですか?
社会の革新につながるような、野心的な研究に対して、7年間の長期支援があります。私たちは、ゲルを引っ張ることで化学反応を起こす研究を計画しています。
―引っ張るだけで、反応が起こるんですか?
ゲルの分子は網目構造を作っています。ゲルを引っ張ると、分子のたるんだ部分が伸びたり、原子と原子の間が切れたりします。そこに他の分子が近づくことで、普段は起こらないような化学反応が起こるのです。
―反応が起こると、どうなりますか?
例えば、ゲルの機能が変わります。ゲルを作っておき、引っ張ることで化学反応を起こせば、ゲルの機能が変わる。これは、もはや生物と同じです。
―生物と同じ?
普通の材料は、一度作ると機能は変えられません。でも人間の筋肉だったら、栄養を取って鍛えれば強くなりますよね。つまり、あとから機能を変えられるゲルは、生物のようだと言えるのです。
必要に応じて機能や形が変わっていくような「生きた材料」を作って、材料の概念を変えたいと思っています。
―なぜ、ゲルの研究をしようと思ったのですか?
高校時代に見た記事に、北大が「ハイドロゲルのメッカ」だと書かれていました。生物関連の技術に興味があったので、ハイドロゲルが生物のような材料だと知り、面白そうだと思ったのがきっかけです。
―ゲル研究の面白いところは?
分子の網目の中に、いろいろなものを入れられて、あとから取り出すこともできます。他の材料と自由に複合できて、アイディアをすぐ形にできるのが魅力です。
―研究者になろうと思ったのは、なぜですか?
修士課程のとき、当時、主流だった説が直感的に違うと思ったんですよね。自分で仮説を立てて実験してみたら、確かに違うと証明できた。この経験が楽しかったんです。
―この先、やってみたい研究はありますか?
やわらかい建物を作りたいです。壁を押したら伸びて、また元に戻るような。勝手に大きくなるとか温度調節するとか、変化する機能も付くといいですね。現実的ではないかもしれませんが…。
―やわらかい建物、面白そうですね!ぜひいつか実現してください。
ゲルの中には、まだまだ可能性が広がっているようです。
【関連リンク】
北大プレスリリース:イカと合成高分子を複合した耐破壊性ハイドロゲルを開発~天然物由来の異方的構造・性質を持つ柔軟複合材料~
創発的研究支援事業:2022年度新規採択課題(科学技術振興機構)
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