プレスリリースを解説!「めざせ!がん診断見えない光で体を見通す」(マハデバスワミィ助教、門出健次教授)

ナマステ! マハデバ・スワミィ助教(左)と門出健次教授(右)

病気のときなど、体の中で何が起きているかを知りたいことがあります。もちろんスパッと切れば中は見えますが、できれば切りたくないですよね。

マハデバ・スワミィ助教(先端生命科学研究院)は、体を傷つけずに内部を調べるための研究をしています。2024年4月8日に出されたプレスリリース「ガン診断に未踏の波長を利用~医療応用が可能な安全性の高い短波赤外蛍光色素を開発~」について、共同研究者の門出 健次教授(同研究院)を交えて話を聞きました。

 

―どのようなしくみで、体内を調べるのですか?

スマートフォンのライトを指でさえぎると、指が赤く光って見えます。これは、赤い光が体を通りやすいために起こることです。

スマートフォンのライトを遮ると、指が赤く光って見える。

目に見える光(可視光)のほとんどは、私たちの体を通り抜けることができません。しかし目に見えない光の中には、体を通りやすいものもあります。例えば、赤外線です。中でも短波赤外線は、体内で吸収されたり散乱されたりしにくいので、体を見通すのに便利です。

可視光と赤外線(近赤外線、短波赤外線)との関係。図の右側ほど光の波長が長い。体の組織への浸透性は、可視光で低く、短波赤外線で高い。

―体を見通して、何をしようとしていますか?

体内の映像化(イメージング)を目指しています。イメージングには蛍光色素を使います。蛍光とは、光を当てるとそれを吸収して、違う色の光を放出することです。

今のところ、人体に使える蛍光色素はインドシアニングリーン(ICG)だけです。ICGは、主に近赤外線を吸収し、放出します。もっと体の奥深くまで鮮明にイメージングするためには、短波赤外線を吸収・放出するような蛍光色素が必要です。そこでICGを元にして、短波赤外線を吸収・放出する蛍光色素を新たに合成しました。

―どのように合成したのですか?

ICGの分子には、炭素原子7個が二重結合を介してつながった部分があります。私たちは炭素原子を9個に増やしたICG-C9と、11個に増やしたICG-C11を作りました。

蛍光色素インドシアニングリーン(ICG)と、新たに合成したICG-C9、ICG-C11の分子構造。図中のC-7、C-9、C-11は、それぞれ炭素(C)原子が7個、9個、11個つながった部分を示す。
水に溶かしたそれぞれの蛍光色素
蛍光色素を合成している様子

―合成した蛍光色素は、どのようなことに使えますか?

体の表面から深さ1センチメートルまでのイメージングが可能になります。例えば、比較的浅いところにできる乳がんの診断ができます。

体の表面から深さ1センチメートルまでのイメージングが可能

また、がんの治療法として、抗がん剤を抗体にくっつけてがんに届ける方法があります。このとき蛍光色素も一緒につけておけば、薬が効いてがんが小さくなっていく様子を観察できます。

マウスの乳がんが小さくなっていく様子
(各日とも左が可視光、右が短波赤外線画像)

外科手術をガイドすることもねらっています。がん細胞を蛍光色素で染めれば、位置がはっきり分かるので、手術での取りこぼしを防げます。

―実用化されるといいですね。

そのためには医療関係者との連携が必要です。まずは医薬品として認証されるように、協力してくれる製薬会社を募集しています!

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というわけで、共同研究に興味のある方からのご連絡をお待ちしております。

関連サイト

プレスリリース:ガン診断に未踏の波長を利用~医療応用が可能な安全性の高い短波赤外蛍光色素を開発~(2024年4月8日)