先端生命科学研究院では所属の研究者(教員、博士研究員、博士後期課程学生)に対し、海外でセミナーを実施する等、国際的なネットワークを形成するための海外渡航費支援を行っています。
支援を受けた研究者のレポートを紹介します。
研究の視野を広げる英国訪問:分野を越えた対話から新たな発見へ
稲葉 理美(いなば さとみ)
先端生命科学研究院 助教
イギリス・エクセター大学、ハーウェル複合研究所
2025年9月16日~28日
この度、先端生命科学研究院の海外渡航支援を受け、自身の研究の幅を広げ、新たな共同研究を始動するために、英国の研究機関(エクセター大学、ハーウェル複合研究所)を訪問する機会を得ました。また、エクセター大学の生命システム研究所(LSI)で研究セミナーを行い、当初の予定以上に国際的なネットワークを築くことができました。
エクセター大学・生命システム研究所は2017年から始動した比較的新しい研究所であり、数学・物理・化学・生物学・医学分野の研究者が在籍する、分野横断・融合的な研究所です。セミナーでは、薬剤の取り込みや排出に関与する膜輸送体の構造と機能発現メカニズムの解明を目指した最新の研究成果を紹介しました。生命システム研究所や医学部所属の研究者を中心に40名ほどの聴講者が集まってくださり、様々な分野の人から多くの質疑をいただき活発な議論を行うことが出来ました。


インペリアル・カレッジ・ロンドン所属の Konstantinos Beis 博士の研究室に訪問し、研究室や関連施設を見学させていただき、共同研究の打合せを行いました。これまでに実施した研究をさらに発展させるため、私自身が描いている新プロジェクト構想を紹介し、Beis 博士の知見やアイディアを共有してもらうことができました。

エクセター大学医学部 Asami Oguro-Ando 博士とは、神経発達症に関わるシグナル伝達タンパク質の同定とそれらの相互作用ネットワークさらに分子レベルでの作用メカニズムの解明を目指した共同研究を開始するためのディスカッションを行いました。さらに、インターラクティブなスタイルのラボセミナーに参加し、分子レベルでの解明を目指した共同研究を行う魅力をアピールしました。

エクセター大学・生命システム研究所の Bertram Daum 博士と Vicki Gold 博士は、クライオ電子線トモグラフィー法を用いた研究を精力的に進めており、この手法を長年リードしてきた世界的な研究者です。私もこの手法を取り入れるために、細胞膜を鮮明に撮影するための Tips、測定や解析についてもアドバイスをもらうことができ、共同研究として進めることになりました。

今回の渡航によって、共同研究の詳細な打ち合わせに加えて、その研究推進に向けたグラント申請やトレーニングプログラム受け入れの打合せが出来たことは非常に大きな進展があったと思います。特に、分野が違えば、言葉一つの定義が異なってくることが往々にしてあり、研究議論中に齟齬が生じたり、それに気づかずにある程度進んだところで、研究計画の1から立て直したり、ということも頻繁に起こりえます。実際に現地での研究設備や研究環境を見ることによって、より具体的にどのような研究を行っているのか、自分の知りたい情報がその研究室にある設備で得られそうなのかを確認することが出来ました。
生命システム研究所でのセミナー後には、コンタクトが複数件あり、急遽4研究室ほど追加で訪問しました。学会発表では出会うことのない、異分野の研究者とのディスカッションを通じ、研究の視野も広がったように感じています。また研究者の方々とも、いずれどこかで繋がる可能性もあると信じ、今後とも人との出会いは大切にしていきたいと改めて実感しました。